2004年05月10日

「Winny」開発者逮捕について

いろいろ書きたいことがたまってるんですが、とりあえず全部すっ飛ばして表記の件を。正直言って、これほどの憤りを覚えたのは久々なので。なお、ここで書く内容や見解は、私個人の責任において記すもので、私が属する組織等とは一切関係ないことを最初にお断りしておきます。

ネット上のソースは、各所で腐るほど紹介されていると思うので、ここではまず、新聞各紙の5月10日夕刊(東京本社最終版)の報じ方を見ていきます。同じ長さや内容の記事でも、見出しの大きさや付け方によって、読者の印象は随分変わりますので。

読売新聞
・一面準トップ 見出し:ファイル交換ソフト 「ウィニー」開発者逮捕 違法コピーほう助容疑 33歳 東大助手/(ウィニーの説明あり)
・社会面トップ 見出し:ウィニー 違法コピーの温床にメス 「開発自体は合法」議論も/コメント:岡本久道弁護士/別稿:ブロードバンド普及で問題拡大/(京都府警の会見写真、公衆送信権の説明あり)

朝日新聞
・一面トップ 見出し:ファイル交換ソフト「Winny」 開発の東大助手逮捕 著作権違反幇助の疑い 京都府警/コメント:東大大学院情報理工学系研究科長/(Winnyの図入り説明あり)
・社会面トップ 見出し:「Winny」開発者逮捕 著作権側は歓迎 「故意」の立証、争点/コメント:日本音楽著作権協会広報部長、近藤剛史弁護士、園田寿・甲南大大学院教授/別稿1:ユーザーら、不安と批判/コメント:技術の開発と不正使用は別 村井純・慶応大教授、教育や法整備 歯止めが必要 森井昌克・徳島大教授/別稿2:「著作権法への挑発的な態度」 京都府警の逮捕理由/(京都府警の会見写真、「Winny」が使われた事件の年表あり)

毎日新聞
・一面トップ 見出し:ファイル交換ソフト 「ウィニー」開発者逮捕 違法コピーほう助容疑 33歳 東大助手/解説:もろ刃の「道具」 指針作成が急務/(Winnyの図入り説明あり)
・社会面トップ 見出し:「開発者」異例の逮捕 ウィニー 法曹界には疑問の声 「ソフト自体は合法」/コメント:森本紘章弁護士、吉峯啓晴弁護士/別稿1:著作権者側 摘発を歓迎/別稿2:「事実を確認中」 東大大学院/(京都府警の会見写真あり)

東京新聞
・一面トップ 見出し:ネットでソフト交換「Winny」 開発の東大助手逮捕 違法複製ほう助容疑 京都府警、全国初/別稿(東大大学院情報理工学系研究科長のコメント):ソフト開発指導 金子容疑者/(ファイル共有ソフトの説明あり)
・社会面準トップ 「Winny」 違法性めぐり議論必至 海外で「開発合法」判断も/コメント:違法性認識が焦点 甲南大法科大学院の園田寿教授/別稿1:捜査批判する書き込み続々 2ちゃんねる/別稿2:利用者逮捕 批判し開発 逮捕の東大助手

日本経済新聞
・一面実質準トップ ファイル共有ソフト「Winny」開発 東大助手を逮捕 違法コピーほう助容疑/(ファイル共有ソフトの説明あり)

と、これを見るだけでも、各紙のスタンス、力の入れ方等々、いろいろなことが分かると思います。その辺の判断は皆さんにお任せしますが。

私自身、以前の部署にいた時はファイル交換ソフトの取材をして、何度か記事を書いたこともあります。その過程で実感したのは、P2P(Peer to Peer= ピア・トゥー・ピア)技術には大きな将来性がある、ということです。その技術の可能性を追求したソフトを作っただけで、民事上の争いや任意の捜査ならまだしも、開発者が逮捕までされてしまうとは! 実際上の使われ方の著作権侵害は、確かにひどい状況のようです。しかし、その責めは個々の違法利用者が負うべきであって、開発者が負うべきではないことは自明だと思うのですが。基本的には、東浩紀氏による「Winny開発者逮捕」の見解に同意します。私の言いたいことがほぼ言い尽くされています。

ただ、ここでさらに指摘しておきたいのは、今回の事態は、最終的に当の著作権者自体の首を絞める状況を招きかねない、という点です。つまり、P2P発展の機運がつぶれることによって、著作権者自らがP2Pを利用した新たな形のサービスを行う可能性を失ってしまう、という危険をはらんでいると思われるのです。

上記の各紙の見出しだけを見ると、著作権者側が今回の事態を全面的に歓迎しているようにも取れますが、実際はそう単純でもないようです。上記の朝日夕刊によると、日本音楽著作権協会広報部長ですら、「ソフト開発者の法的責任までは問えないと思っていたので、かなり踏み込んだ捜査だと思う」とコメントしています。コンピュータソフトウェア著作権協会も、今回の件に関するリリースで、わざわざP2P技術の重要性に言及しているほどです。これら著作権者側の反応を考え合わせても、今回の強制捜査はやはり行き過ぎなのではないか、という感を強く抱かざるを得ません。

最後に、かつて自分が書いた記事の一節を引用して終わります。建て前論だと言われようとも、これは私の偽らざる気持ちですし、当時も今もその思いは変わっていません。

今回の決定【引用者注=ファイルローグへの仮処分決定】を機に、P2Pそのものを違法な技術ととらえる風潮が広まれば、P2Pの将来の芽をつみ取るおそれも出てくる。無料で手軽に入手できるからといって安易に著作権侵害をすることは、インターネットの発展を阻害しかねない。利用者は改めて心すべきだ。(読売新聞2002年4月17日朝刊解説面より)

追記。
今回の事態はJASRACやACCSは当事者じゃないだろうと
>当事者はあくまでも京都府警ではないですか
だからこそ、著作権者側は、今回の事態を100%肯定的に見ているのかどうか、ということを言いたいわけですよ。自分たちがやろうとしている(かもしれない)ことすら出来なくなってしまったら、どうするんでしょうね、と。

Posted by fuku at 23:57 | otaku | トラックバック (1)
コメント

47氏の

>「そろそろ匿名性を実現できるファイル共有ソフトが出てきて、
>現在の著作権に関する概念を変えざるを得なくなるはず。試しに
>自分でその流れを後押ししてみよう」

このような発言についてはどう思われますか?
著作権制度が気に入らないからどんどん侵害していって法を変えてしまおうって趣旨の発言ですよね?
これを認めるってことは法治国家としてまずいのではないかと思いますが。

Posted by: たろ at 2004年05月11日 05:27

私は別に、開発者氏が無罪だとか、全面的に擁護しようとか言う気はありません。本人も容疑を認めているとの報道もありますし、違法行為に使われることを承知のうえで開発したと認めたのなら、有罪になるのはほぼ間違いないでしょう。

ただ、「逮捕」という、現在の日本ではその時点での有罪宣告&市中引き回し&社会的存在の抹殺に匹敵する――そのこと自体も本当は問題なのですが――公権力の発動に見合うだけのことであるかどうかは、大いに疑問です。Winnyを用いて緊急性を要する社会的な大事件が起きたというわけでもありませんし、本人も事情聴取等に応じているわけですから、任意での捜査及び立件で十分対応可能だったのではないかと。

しかも容疑は、著作権法違反の、さらにその幇助ですよ? この程度――と「敢えて」言いますが――の容疑で恣意的に逮捕されるような社会になったら、それこそ「法治国家としてまずい」のではないかと思いますが。

例えば、夜霧さん
http://www.rr.iij4u.or.jp/~yogiri/
が日記(5月10日付)で、実際に被害を受けている側の立場から、Winny開発者及び利用者に激しい怒りを表明されているのは非常によく分かりますし、共感します。違法利用者はびしばし摘発されるべきでしょう。しかし、一罰百戒や見せしめの目的で、逮捕という重い手段が用いられるのだとしたら、それは大変危険なことだと考えます。

むしろ、P2P技術と著作権保護とを両立させる方向性を模索していく方が、みんなが幸せになれるんじゃないかと思うのです。難しいであろうことは重々承知しているのですが。その意味でも、日本におけるP2Pの可能性をほぼ奪い去った(であろう)今回の事態を、非常に残念に感じているのです。

Posted by: fuku at 2004年05月11日 09:19

実際に犯罪を犯している人間の逮捕の判断を恣意的と言ったらスピード違反にしたって
脱税にしたってお役所側の判断に拠る部分が大きいです。それを恣意的と感じるか合理的と感じるかにも違いはあると思いますが。

実際に犯罪だということは大前提としてその上で逮捕するケースが限定されるというものは仕方ないです(まさか一つの犯罪を見逃したから他の全を見逃すというわけにはいきません。確かにその判断の仕方を間違えると暴力になりますが)

その判断基準は悪質さや危険性ってことになるんでしょうけど。

日本の著作権制度を変革するために悪意でツールを配布することは「この程度」と言えること
とはとても思いません。犯罪に使用されることを目的としてwinnyを配布し、そして目論見通りに犯罪に使われているのです。

今回の逮捕理由から考えてもP2P開発のための開発・公開を実質的に禁止したものではないと思いますよ。47氏の発言がまずかった結果の逮捕(少なくとも建前は)ですし。

と、自分の考え方を述べた上でとりあえず福さんの考え方というものはわかりました。レスありがとうございました。

結局は「この程度」と感じるか「当然の犯罪」と感じるかの違いなんですよね。例えば犯罪だとは言っても一人の人間にぴったり張り付いて軽犯罪を犯すたびに逮捕なんてのは私もまずいと思いますので。

Posted by: たろ at 2004年05月11日 13:51

輸入CD禁止といい、ソフト作者逮捕といい、今の日本はとても現代の法治国とは思えないですな。こんなんじゃ時代の流れに取り残されることになるでしょう。

発言がまずいのが逮捕のきっかけだって、北朝鮮ですか?

Posted by: るた at 2004年05月11日 16:35

言論の自由も思想の自由も当然認められていますよ。決して発言そのもので捕まったと言っているわけではありません。


ただし著作権を侵害する意図を持って侵害の手助けをしてはいけません。発言によってその意思があるとされ、更にそのための道具を提供していたことによって逮捕されたのです。

この手の事件でなくても発言により意思の有無を判断されることは多々あります。ぶっ殺してやると言って人を刺したから殺人未遂とかね。

私も逆輸入禁止に関しては疑問がありますが。

Posted by: たろ at 2004年05月11日 16:52

http://www.moodindigo.org/blog/
47氏支援サイトです。
弁護士費用等のカンパ受付も始まっています。

Posted by: 名無しさん at 2004年05月11日 18:06

>後押し
研究者として、P2Pの破壊力を知っていたからの発言、という気もします。著作権法の基本理念というのが、要するに一対一対応なわけで。
winnyならずとも、出た時点で確実に、現状のような使い方が出るでしょう。今までもそうですし、これからもたぶんそうなるでしょうし。文字通り骨子が役に立たなくなる。
現状のインターネット、それ以前の草の根ネット、それどころかコピー機の段階ですら、その基本骨子は揺さ振られていたと思うのですが。
まあ、P2Pソフトを作り出すことという段階自体が違法だと言うのならば、それは抗弁しようもないのですが。
自覚的でない研究者の方が"他意がないからより無罪である"というのも、なんだかなあ。

Posted by: 仮名 at 2004年05月11日 21:05

発言や態度のような事柄はあくまで行動そのものを判断した上での2次的な要素であると思います。なぜならその捉え方は主観による部分が大きいですし、当時の状況や文脈の問題もあります。たろさんの例を使わせていただけば人を刺したという行為はそれだけで基本的に違法で、それへの対処に上記の2次的要素を考慮するのではないかと思います。
今回のことについていえばWinnyの開発自体が違法であるならば、それにどのような対応をとるかの判断に発言などを考慮するということは分かりますが、Winny自体は暗号化機能付き通信ソフトであるわけで、ウイルスのようなものではなく、その開発そのものが違法であるとはとても思えません。それを過去の掲示板上での発言を根拠に違法と判断するのは違和感があります。

P2Pソフトの将来ですが、少なくともインターネット上で不特定多数の人間が使用する形式のソフトを開発するのはかなり勇気がいる状況になったと思います。この事件があったのにも関わらず開発したということで悪意があると取られるかもしれませんし。

Posted by: K&K at 2004年05月11日 22:01

お疲れ様です。福さんもこんなところで場外乱闘してたのですね(笑)
ぼくもこのニュースは忙しい本業をしばらく放置して追っかけていました。
http://pctaro.cocolog-nifty.com/nekopunch/2004/05/winny2.html
いろんな論点があるでしょうけど、なにしろ逮捕された氏が容疑を認めちゃっているので、
法廷での本格論議という形にはならないかもしれませんね。

Posted by: Taro at 2004年05月11日 23:10

はじめまして

>>福田さん
>むしろ、P2P技術と著作権保護とを両立させる方向性を模索していく方

P2Pは複製を許容するシステムであり、現行著作権法は複製を許容しないシステムだと思います
現行著作権法とP2P技術とは相容れないものではないでしょうか

そこで、現行著作権法を壊してしまおう、無意味な物にしてしまおうというのがwinnyなのかなと思います


>>たろさん
>結局は「この程度」と感じるか「当然の犯罪」と感じるかの違いなんですよね。

「この程度」と言うのは、犯罪ではなく容疑に掛かっているんだと思います
福田さんは、47氏に逮捕に値する容疑があるのかを問うているのではないかと

個人的には、現行著作権法の枠組みを壊そうとしたのは問題だとは思います

Posted by: しま at 2004年05月11日 23:29

>しまさん

すいません、その言い方のほうが的確ですね。「妥当な容疑」に訂正します。ご指摘ありがとうございました。その上で今回の逮捕は妥当であったと思っています。

Posted by: たろ at 2004年05月12日 00:15

関連HP運営者宅を捜索 ウィニー、ページは閉鎖
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040512-00000001-kyodo-soci

ここまでやるか・・・・・(唖然)

Posted by: 名無し at 2004年05月12日 00:51

47氏逮捕に関してはちょっと微妙だなとは思っていましたが、
紹介サイトの管理者宅家宅捜索というのはやりすぎですね。

情報が出てないんでなんとも言えませんが、大した理由もなく捜査したというのなら
47氏の逮捕も単なる見せしめという事になってしまいますね

Posted by: しま at 2004年05月12日 01:06

いろいろとコメント、そして2ちゃんでのレス、ありがとうございます。というかTaroさん、ブログを始められていたのならリアルで教えて下さればいいのに(笑)。思わずのけぞりました。

皆さんへのレスとして、私の考え方を、続・「Winny」開発者逮捕について
http://www.fukudiary.com/mt/archives/000325.html
で改めてまとめましたので、そちらをご参照下さい。

Posted by: fuku at 2004年05月12日 01:24

今回の件で一番気にかかるのは、解説サイトまで家宅捜索されたこと。47氏が逮捕されたことは、不当だと思うけどそれは今後の裁判で明らかにすることなんだろう。

解説サイトの家宅捜索は逮捕ではないにせよ、非常に不当だと感じる。表現・言論の自由とはいっても、ある程度の制限が必要であることは理解している。しかし、今回の件に関しては明らかにその自由を制限・弾圧するための権力行使としか思えない。

問題はこれだけではない。Winnyを解説していた個人サイトは、このような家宅捜索を受けた。では、その個人サイト以上にWinnyの普及に影響を与えたであろう出版物に関してはどうだろうか?

解説サイトにおいては違法性を助長するような表現はそれほど見られてはいなかったと思われる。その大半が機能や設定に関する部分を扱っており、どんなファイルが…という部分には触れられてはいない。しかし、出版物に関しては、どんなファイルが流通しているかまでを明らかにしており、より悪質な使い方を助長している。違法な使い方はするなと注釈はしているものの、その内容からみてその意図がないことは明らかであろう。

では、なぜ個人サイトは家宅捜索され、出版会社は放置されているのか。答えは簡単、出版社を家宅捜索すれば、出版業界を含めたマスメディア全体を敵に回さなくてはいけないから。あとあと面倒くさいことになるだろうから、個人を見せしめに…といったところだろう。
大人の事情はわからないでもないが、万人に対して公平で平等であるべき組織が、このような行動をしたこと自体、あってはならないことだと思う。マスメディアであれば許され、個人であれば許されない。どちらも伝えるという一点においては同じなのに。これからの時代に今回のような時代遅れも甚だしいことを繰り返していくのだろうか。

長文申し訳ない。

Posted by: (= ̄ー ̄) at 2004年05月14日 03:13

ま、Tipsサイト運営者宅を家宅捜索するぐらいなら、某誌編集部を家宅捜索するほうがよほど意味がありそうですけどね。というのは冗談で、どちらも容認できないのは言うまでもありません。でも、違法行為をあおるだけあおって、他人のふんどしで金を稼ぐという振る舞いは、正直言って非常に腹立たしいのですが。

Posted by: fuku at 2004年05月15日 13:58
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