たまには毛色の違うことを書いてみよう。
エロチック街道さんで知ったのですが、進化するビビンバ表記について。
まず押さえておきたいのは、韓国語には日本語と違って、子音に有声音、無声音の対立がないことです。日本語や英語では、子音を濁るか濁らないか――「ガ」と「カ」、[b]と[p]など――で区別しますが、韓国語では、それは子音の弁別に関係ありません。
その代わりに、韓国語や中国語では、有気音、無気音の対立があります。中国語では、子音を発音する時に、単純に息を漏らすか漏らさないかで聞き分けます。ところが韓国語では、これが三種類あるからややこしくなります。
平音、激音、濃音といって、非常におおざっぱに説明すると、激音が息を激しく出す有気音、濃音が息を全く出さない無気音、平音はその中間というか、有気無気を意識しない音、となります。日本人には、平音が語中にある時には濁って聞こえたりしますが、激音や濃音は基本的に澄んで聞こえます。繰り返しますが、韓国語において子音が濁るか濁らないかは、音を区別する要素ではありません。
これを前提としたうえで、「ピビンパ」の韓国語表記を見てみましょう(以下ハングル表示を使用します。見えない方は、韓国語フォントをインストールして下さい)。
「비빔밥」
ここに登場する文字を分解すると、ㅂ=平音の[p]または[b](語頭、語尾では[p]、語中では[b])、ㅣ=[i]、ㅁ=[m]、ㅏ=[a]ですので、並べて書くと
[pibimbap]
となります。でも、このままでは正解ではありません。ここに現れる「비빔」[pibim]とは、「비비다」[pibida]=「混ぜる」という動詞の、名詞につく形です。ちなみに「밥」[pap]=「ご飯」なので、全体では「混ぜご飯」という意味です。
で、このような場合、後に来る名詞の冒頭の子音は、濃音化します。ここで便宜的に濃音の[p]を[p']と表すとすると、
[pibimp'ap]
ですね。次に、一番最後の[p]に着目しましょう。韓国語では、語尾に子音の[k][t][p]が来た場合、破裂させません。どういうことかというと、英語では、例えば[map]という時に、最後の[p]で息を出して、母音がなくても「マップ」と聞こえるように発音しますね。ところが韓国語では、[p]の口の形はするのですが、息は出さずに飲み込むように発音します。日本人には聞き取りにくいのですが、ニュアンス的には「ッ」と表記したいところです。
以上を踏まえると、最も韓国語の発音に近い日本語表記は、
「ピビンパッ」
という感じになろうかと思います。ですが、最後の「ッ」は普通の日本人にはほとんど聞こえないので、
「ピビンパ」
が一番妥当かなあ、と考えます。
ちなみに「クッパ」は、「국밥」[kukp'ap]で、「국」[kuk]=「汁」なので、「汁ご飯」という意味です。
こんなことをだらだら書いたのは、「ピビンパ」の表記が日本語でいかように揺れようとも、違う言語なんだから完全に表記できないのは当たり前だ、と言いたいからです。韓国人にとっては、語頭が日本人に「ピ」と聞こえようと「ビ」と聞こえようと、「비」という「同じ音」として認識しているわけですから。
逆に言えば、我々が韓国で日本語流に「パン」と発音した時、彼の国の人には「部屋」(방[pang])に聞こえたり、「ピストルの発射音」(팡[phang])に聞こえたり、はたまた「(食べ物の)パン」(빵[p'ang])に聞こえたりすることもあるわけで。日本人には同じ「パ」にしか聞こえない音を、韓国人は三通りに聞き分けているのです。
こんな話、面白くないかなあ・・・。まあ、勢いで書いてしまったので。
Posted by fuku at 21:53 | korea | トラックバック (4)「エロチック街道」
http://head.as.wakwak.ne.jp/games/
のヘッドさんに反応して頂きました(3月16日付)。
>ただ、この元ネタの進化するビビンバ表記が興味深いところは、
>外来語を受容する変遷が伺えるところです。揺れがあるぞ、
>という指摘からその先、日本人がどうそれらをどのように
>咀嚼していったかという側面ですね。
まさにご指摘の通りで、元ネタにかこつけて自分の書きたいことを書いてしまった、というのが真実ですね。何で韓国人の話す日本語は清濁の区別がつきにくいのかということ――そして我々の話す韓国語も、相当熟練しないと韓国人には奇異に聞こえること――を、なるべく多くの人に知ってもらいたかったので。
元ネタは元ネタで面白く、ヘッドさんのおっしゃるサンタローザ→三太郎の変化にもなるほどなあ、と思いました。上で書いたのは、あくまで原則論から言えばこうなる、という話で、私自身も普段は恐らく「ビビンバ」って言ってますし。
Posted by: fuku at 2004年03月17日 01:25